2004-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ベルゴットの死

あのスワン家で出会い、言葉を交わしたこともある語り手の憧れの小説家、ベルゴットhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040921は長いこと患っていた。 けれどもベルゴットはその病身に鞭打って、数か月前からの不眠にもめげず、ジャガイモを少しだけ食べてから…

ベルゴット

かなり健康状態が悪化しているにもかかわらず、フランスの小説家、ベルゴットはパリのジュ・ド・ポーム美術館に「オランダ派絵画展」を観にいった。 その絵画展で、フランスの小説家、ベルゴットはオランダの画家、フェルメールの「デルフトの眺望」にいたく…

呼び売りの声

昨夜、スワンとオデットが出逢った想い出のサロン、あのヴェルデュラン家を訪問すると言い出したアルベルチーヌを、アンドレに電話してまで止めさせた語り手は、アルベルチーヌと気まずい夜を過ごしたのだったが、翌朝は朝早く目を覚まし、強い喜びを覚える…

バイロイト音楽祭

「あいつはワーグナーなんかどうでもいいんだ。 まるで魚がリンゴなど見向きもしないようなものさ。そんなオデットhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040912と一緒に二週間もワーグナーを聴きに行くなんて。」

眠る女をみつめて-2

アルベルチーヌさえいなければ、あこがれのヴェネツィアに行くことが出来るのに、などと考えることが可能なのも、実はアルベルチーヌが一つ屋根の下に語り手とともに暮らしてくれているからだ、ということに語り手は気が付かないようだった。 かつて見たこと…

眠る女をみつめて-1

アルベルチーヌは「籠の鳥」だった。 語り手は、アルベルチーヌを一人で外出させることを嫌がり、彼女の女友達で花咲く乙女たちの一人、アンドレを監視役として同行させるのだった。そんな、自分勝手で疑い深い語り手だったが、その反面、自分がちっともアル…

アルベルチーヌとの生活-2

アルベルチーヌはまるで猫だった。 彼女はドアひとつ閉めようとせず、逆にどこかのドアがあいていれば、犬か猫と同様に平気で入りこんでくるのだった。アルベルチーヌのいささか始末に負えない魅力というのは、家のなかで、若い娘というよりもむしろこのよう…

アルベルチーヌとの生活-1

プルーストの小説「失われた時を求めて」、第五篇「囚われの女」は下記のように始まる。 「朝早く、まだ顔を壁に向けたまま、窓の分厚いカーテンの上をもれる光線がどんな具合かもたしかめないうちに、私にはその日の天気がもう分かっていた。通りの最初の物…

鈴木教授の全訳版の帯にはこうある 横たわるアルベルチーヌ 私はその眠りの上に船出する

アルベルチーヌへの急旋回

眠れない夜、ママンの“おやすみのキス”を待ちわびていたコンブレー、そのコンブレーhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040803に、母が用事があって帰らなければならいと知らされた時、良い機会だと思った語り手は母にアルベルチーヌと結婚しない決心をした、…

偽りの決闘(シャルリュスとモレルー2)-4

シャルリュス男爵はシャルリュス男爵で、若き美貌のバイオリニストのモレルが、決闘で男爵が相手に殺されてしまうのではないかと心配して、モレルが自分のところへ飛んできてくれて、『決闘なんて止めて!』と言ってくれるのではないかと、そのことばかりを…

偽りの決闘(シャルリュスとモレルー2)-3

呆然と列車の前にたたずみながら涙をこぼし、それが彼のマスカラを溶かすのを見た語り手は、そのままシャルリュス男爵を一人ぼっちにして置いていくことが出来ず、まるでアルベルチーヌと夫婦のような会話を交わすのだった。 『君は先に帰っておいで。僕はシ…

偽りの決闘(シャルリュスとモレル−2)-2

恋した人はいつも恋人のことを考える。 シャルリュス男爵も例外ではなかった。 シャルリュス男爵は美貌のバイオリニストのモレルの一挙一動に落胆したり、喜んだりするのだった。 一方の惚れられた男である美貌のバイオリニストのモレルは、といえば最初はい…

偽りの決闘(シャルリュスとモレル−2)-1

あのスワンさんが高級娼婦(ココット)のオデットに恋した時に、しつこく足繁く通った、ブルジョワのヴェルデュラン夫人http://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040901は夏の間、海のバルベックからローカル線に乗って少し行ったところにあるカンブルメール侯爵家…

ある出会い(シャルリュスとモレルー1)-3

飛んで来るようにしてやってきたシャルリュス男爵はモレルに、『今夜、私は少しばかり音楽を聞きたいので、君に500フラン、払おう!』と申し出るのだった。そして二人は親密そうに話し始め、男爵は語り手に『じゃ君、いずれまた』と言って、語り手に『早く消…

ある出会い(シャルリュスとモレルー1)-2

パリの夜会(ソワレ)で会うシャルリュス男爵は不動の体をピタリとフィットした燕尾服に包み、エスプリ溢れる会話を駆使しているから、語り手にはシャルリュス男爵がどれくらい年寄りなのか分からなかったが、ドンシェール近郊の軽便(トラム)の小駅で、昼…

ある出会い(シャルリュスとモレルー1)-1

アルベルチーヌに対するレズビアン疑惑が拭い切れない語り手は、アルベルチーヌに対してどうしても意地悪な態度をとり続けるのだったが、そんな語り手の態度を、或る日部屋まで上がってきたアルベルチーヌは詰(なじ)るのだった。 そんなアルベルチーヌに対…

アルベルチーヌへの疑惑-3

医者のコタールの指摘によって、目覚めさせられたアルベルチーヌへの疑惑は時間が経てば経つほど、語り手を悩ますのだった。 そういえば、今しがた語り手はアンドレが、彼女に特有の愛らしい身振りで、甘えるようにその頭をアルベルチーヌの肩にのせ、なかば…

アルベルチーヌへの疑惑-2

語り手の心に浮かび上がってきた疑惑とは…。 アルベルチーヌとその女友達たちにアンカルヴィルのカジノに誘われた語り手はヴェルデュラン夫人宅を訪問しなければならなかったのだけれども、軽便(トラム)が故障してしまったために、止むを得ず誘われたアン…

アルベルチーヌへの疑惑-1

語り手の心のなかに間歇的に湧き出る、亡き祖母の思い出と、祖母とともにひと夏を過ごしたバルベックの海は、語り手に家政婦のフランソワーズに直筆のメールを委ねさせ、パリのアルベルチーヌhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040930のもとへと届けさせて、…

鈴木道彦教授の全訳版の帯にはこうある 私は感じた、アルベルチーヌにゴモラの罪の匂いを

心の間歇

かつて祖母とともに訪れたバルベックは、夏の海のバルベックだったが、二度目のバルベックは復活祭のバルベックだった。 祖母が亡くなってから、常に、毎日毎日、祖母を、そして祖母の死を思っている語り手ではなかったが、こうしてバルベックのグランド・ホ…

社交界の輪舞-2

こうして、永遠不変のように思われていた上流階級、貴族階級の社交界もけっして、時の流れに抗うことは出来ず、やはり時とともにその相貌を変化させていくのだった。 スワン夫人(オデット)のサロンの上昇には、作家ベルゴットの人気上昇も支えの一つになっ…

社交界の輪舞-1

ゲルマント公爵夫妻と共にゲルマント大公夫人の大晩餐会から帰った語り手は、海のアルベルチーヌの訪れを待つあいだ、すっぽかされそうになったアルベルチーヌへの恨みも手伝って、初恋の女性、あのジルベルト・スワン嬢に宛てて、手紙を書いていたように、…

ゲルマント大公夫人の夜会-3

語り手はさまざまな二次会の誘いを断って、ゲルマント公爵夫妻の車に便乗して帰宅する。 あのラ・ベルマの舞台“フェードル”を観に行っているアルベルチーヌ・シモネhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040929が舞台が終わったら、語り手の部屋に寄ることになっ…

ゲルマント大公夫人の夜会-2

本当の貴族社会の社交性とはどういうものなのか? 貴族の社交性、親切さを示す好例とはまずはこういうものである。 モンモランシー公爵夫人が、イギリス女王のために催した午後のパーティーで、ビュッフェ形式のテーブルに向かって、短い行列が出来ていたの…

ゲルマント大公夫人の夜会-1

語り手は結局、ゲルマント大公夫人に招待されているのかどうかハッキリとしないまま、シャルリュス男爵と元・チョッキ仕立て職人ジュピアンの出逢いを密かに覗き見してからゲルマント公爵夫人の邸で病身のスワンと出会ったのち、ゲルマント大公夫人の夜会へ…

男はソドムを持たん

人(ひと)と人(ひと)に運命の出会いというものがあるとすれば、プルーストの小説「失われた時を求めて」第四篇「ソドムとゴモラ」の冒頭は、人と人の運命の出会いを描いて余すところがない。 ============ 『ゲルマント大公夫人は、**日に…

鈴木道彦教授の全訳版の帯にはこうある 私は見た、シャルリュス男爵に禁断のソドムの影を

ゲルマント公爵夫人の赤い靴-2

それほど反ユダヤ主義(反ドレフュス派)で凝り固まっているゲルマント大公だというのに、しかも余命幾許(いくばく)も無いというのに、ユダヤ人スワンはどうしてそんな病身を押してまで、今夜のゲルマント大公夫人の夜会に出席するというのだろう、と訝(…