スワン家のほうへ(9)
春の休暇のはじめは陽が早く沈むのだが、サン=テスプリ通りにたどり着くと、家の窓ガラスはまだ夕陽の残照をとどめ、カルヴァリオの丘の森の奥には深紅の帯が広がり、その帯がさらに先の池にも映し出されていた。真っ赤な夕映えのあとはかなり冷えこむことが多く、私の頭のなかでその赤さは若鶏がローストされる赤い火と結びついていた。散歩がもたらす詩的な楽しみのあとに、美食と熱気と休息の楽しみが期待できるのである。
失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)
- 作者: プルースト,吉川一義
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/11/17
- メディア: 文庫
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