2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

スワン家のほうへ(6)

このように私の部屋の薄暗い冷気は、通りに照りつける太陽と呼応していたが、それは影 が光ゆえに生じるのに似て、太陽と同じように光り輝き、私の想像力に夏の全景をそっくり映し出してくれた。 失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)作者…

スワン家のほうへ(5)

サン=チレール教会の鐘塔は、遠くからそれとわかり、コンブレーの町がまだ見えないうちから地平線上に忘れがたい姿を刻みつけていた。復活祭の週に私たちをパリから運んできた汽車の窓から見ていると、鐘塔が空に描かれた雲の畑をつぎつぎと越え、小さな鉄の…

スワン家のほうへ(4)

それは、すぐそばの田園の匂いと同じで、いまだ確かに自然の、空色の匂いをとどめているとはいえ、すでに出不精な人に特有の匂いとなり、一年のありとあらゆる果物が手際よく処理され、透明で美味なゼリーとなり、果樹園から食料戸棚へと移った趣がある。季…

スワン家のほうへ(3)

http://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040812そして家とともに、朝から晩にいたるすべての天候をともなう町があらわれ、昼食時にお使いにやらされた「広場」はもとより、私が買い物に出かけた通りという通り、天気がいいときにたどったさまざまな小道があらわれ…

スワン家のほうへ(2)

夜、家の前の大きなマロニエの下で、私たちが鉄製のテーブルを囲んで座っていると、庭のはずれから聞こえてくる呼び鈴が、溢れんばかりにけたたましく、鉄分をふくんだ、尽きることのない冷んやりする音をひびかせる場合、その降り注ぐ音をうるさがるのは「…