スワン家のほうへ(4)


それは、すぐそばの田園の匂いと同じで、いまだ確かに自然の、空色の匂いをとどめているとはいえ、すでに出不精な人に特有の匂いとなり、一年のありとあらゆる果物が手際よく処理され、透明で美味なゼリーとなり、果樹園から食料戸棚へと移った趣がある。季節の匂いとはいえ、すでに家具に染みこんで家の匂いとなり、肌をさす白い霜の寒さがほかほかのパンの温かさで和らげられた匂いであり、村の大時計のように、暇をもてあましているものの、きちんと時間を守る匂いである。



のらくらした、それでいて堅気の匂い、呑気でありながら、用意周到な匂い、リネン類の匂い、早起きで信心ぶかく、平穏で味気ないのを幸せと感じる匂いである。平穏といっても一抹の不安をもたらしてくれるし、味気ないといっても、そこで暮らしたことのない人には訪れるだけで汲めども尽くせぬ詩情をもたらしてくれる。その空気には、滋養に富む風味ゆたかな静寂の精華があふれていて、そこを歩むと、私としては否応なく食いしん坊の気分になる。とりわけ復活祭のころの朝は、いまだ肌寒く、コンブレーに着いたばかりの私にはその静寂がいっそう満喫できた。