スワン家のほうへ(3)
http://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040812
そして家とともに、朝から晩にいたるすべての天候をともなう町があらわれ、昼食時にお使いにやらされた「広場」はもとより、私が買い物に出かけた通りという通り、天気がいいときにたどったさまざまな小道があらわれた。そして日本人の遊びで、それまで何なのか判然としなかった紙片が、陶器の鉢に充たした水に浸したとたん、伸び広がり、輪郭がはっきりし、色づき、ほかと区別され、確かにまぎれもない花や、家や、人物になるのと同じで、いまや私たちの庭やスワン氏の庭園のありとあらゆる花が、ヴィヴォンヌ川にうかぶ睡蓮が、村の善良な人たちとそのささやかな住まいが、教会が、コンブレー全体とその近郊が、すべて堅固な形をそなえ、町も庭も、私のティーカップからあらわれたのである。
失われた時を求めて(1)――スワン家のほうへI (岩波文庫)
- 作者: プルースト,吉川一義
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/11/17
- メディア: 文庫
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