偽りの決闘(シャルリュスとモレルー2)-3

呆然と列車の前にたたずみながら涙をこぼし、それが彼のマスカラを溶かすのを見た語り手は、そのままシャルリュス男爵を一人ぼっちにして置いていくことが出来ず、まるでアルベルチーヌと夫婦のような会話を交わすのだった。
『君は先に帰っておいで。僕はシャルリュスさんの傍にいてあげたいから。』と語り手が言えば、『あなたのなさりたいようになさってね。あのかたがいてくれとおっしゃるのなら、あなたがシャルリュスさんのいうとおりにしてあげるのにわたしも賛成だわ。』と答えるアルベルチーヌの返事を聞いて、なにかほのぼのとしたものを感じる語り手だったが、実は語り手はもうアルベルチーヌと別れようと心に決めていたのだから、こういう会話も、もうこれが最後になるだろうと思うのだった。
男爵と語り手は一軒のカフェに入り、ビールが運ばれてきたのだが、語り手は男爵の目が、不安に駆られて何かの計画に向けられているのを感じるのだった。男爵は紙とインクを求めると、一心不乱に8ページほどのメールを一気に書き、語り手に、モレルにいますぐこのメールを直接渡すように、モレルの家に行ってくれと頼むのだった。
そのメールは男爵とモレルとの男と男の愛を噂話にしていたモレルの上官の将校に対して「決闘をする」という内容だった。