偽りの決闘(シャルリュスとモレルー2)-4

シャルリュス男爵はシャルリュス男爵で、若き美貌のバイオリニストのモレルが、決闘で男爵が相手に殺されてしまうのではないかと心配して、モレルが自分のところへ飛んできてくれて、『決闘なんて止めて!』と言ってくれるのではないかと、そのことばかりを心待ちして、気もそぞろだった。
そしてモレルはモレルで、シャルリュス男爵と将校が決闘することによって、モレルがゲイであることが噂になり、フランスの芸大、コンセルヴァトワールへと進むさまたげになること、ただそれだけを気にして、決闘を止めさせなくてはと思って、急いで慌てて、語り手と一緒にシャルリュス男爵のもとへと駈けつけるのだった。
男爵の待つカフェにモレルが現れると、男爵は天にも昇る気持ちになるのだった。
そしてシャルリュス男爵はモレルの精神的父親になりたい、とさえ思って、何人かの通行人が、気が変になった男かと思って振り返るのもかまわず、自分ひとりで、両手をあげながら力いっぱい叫ぶのだった、「ハレルヤ!」と。