偽りの決闘(シャルリュスとモレル−2)-2

恋した人はいつも恋人のことを考える。
シャルリュス男爵も例外ではなかった。
シャルリュス男爵は美貌のバイオリニストのモレルの一挙一動に落胆したり、喜んだりするのだった。
一方の惚れられた男である美貌のバイオリニストのモレルは、といえば最初はいかにもフランスの庶民らしく、単純で、無欲さのためか、他人に頼らない毅然とした魅力的な態度を示していたのだが、だんだんシャルリュス男爵を邪険に扱うようになってくるのだった。
シャルリュス男爵はいっそ、モレルを自分の養子にして、自分のゲルマント家の由緒ある貴族の名前を与えたりもしようかとさえ考えたのだが、モレルは国立音楽院コンセルヴァトワール)のことしか眼中にないのだった。
そんな或る日、美貌のバイオリニストのモレルはその日の午後と夜をモレルと一緒に過ごせると思ってルンルンしていたシャルリュス男爵に向かって、『では、私は用がありますので』と言って、行ってしまったので、すっかり落胆したシャルリュス男爵は不幸にめげないようにと努力したにもかかわらず、呆然とたたずみながら涙をこぼし、それが男爵のマスカラを溶かすのを、語り手は見た。