アルベルチーヌとの生活-2

アルベルチーヌはまるで猫だった。
彼女はドアひとつ閉めようとせず、逆にどこかのドアがあいていれば、犬か猫と同様に平気で入りこんでくるのだった。アルベルチーヌのいささか始末に負えない魅力というのは、家のなかで、若い娘というよりもむしろこのようにまるでペットのようにしているところにあり、部屋に入ってきたかと思うと出てゆき、どこへでも思いがけない場所に姿をあらわし、ベッドの語り手のかたわらに飛びこんで来てそこに場所をこしらえると、もう出てゆこうとはしないで、しかも邪魔にはならないのだった。
しかしアルベルチーヌは、あの家政婦http://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040809、フランソワーズに躾け(しつけ)られてついに、語り手の睡眠時間を尊重するようになって、語り手がベルを鳴らさないうちは部屋に入ってこようとしないばかりか、物音もたてないようになった。
そして語り手の部屋に入ってくると、アルベルチーヌはやにわにベッドに飛び乗り、語り手がどんなに頭が良いのか説明しようとしたり、夢中になって、語り手と別れるくらいなら死んだほうがましだと真顔で誓ったりするのだったが、それは決まって、語り手がヒゲを剃った日なのだった。