アルベルチーヌとの生活-1

プルーストの小説「失われた時を求めて」、第五篇「囚われの女」は下記のように始まる。
「朝早く、まだ顔を壁に向けたまま、窓の分厚いカーテンの上をもれる光線がどんな具合かもたしかめないうちに、私にはその日の天気がもう分かっていた。通りの最初の物音が湿気のために穏やかに屈折して聞こえてくるか、それともひろびろと冷たく澄んだ朝の空ろ(うつろ)なよく響く空間を矢のように震えながら届いてくるかで、天気が分かったのだ。」
男女を問わず成人には二通りのタイプしかない、と思う。他者が傍らに在ると眠れないタイプと、傍らに在っても眠れるタイプの二通りである。
海のバルベックから、母がコンブレーに行っていて不在のパリのアパルトマンへと、アルベルチーヌと共に帰ってきた語り手は、アルベルチーヌと同じ屋根の下に住むようになったが、その寝室は別々だった。
語り手の部屋から二十歩ほどの、壁掛け(タピスリ)のさがった父の書斎がアルベルチーヌの部屋になった。そして毎晩夜ふけに語り手のそばを離れるとき、アルベルチーヌはその舌を語り手の口のなかにそっと滑りこませ、語り手にはそれが、まるで日々のパンのように、また滋養豊かな食べ物のように思われるのだった。