眠る女をみつめて-1

アルベルチーヌは「籠の鳥」だった。
語り手は、アルベルチーヌを一人で外出させることを嫌がり、彼女の女友達で花咲く乙女たちの一人、アンドレを監視役として同行させるのだった。そんな、自分勝手で疑い深い語り手だったが、その反面、自分がちっともアルベルチーヌを愛しているわけではなく、むしろ彼女のおかげで自分の自由を奪われているようにも感じ、一人で空想に耽ったり、通りすがりの若い女性を眺めたり、ヴェネチアに旅行したりするーそうした楽しみが、不当に妨げられているようにも思えるのだった。そんな語り手だったが、アルベルチーヌとの関係でまれに見出す幸福な瞬間は、眠っている彼女をみつめる時だった。
アルベルチーヌとの生活は単純で平穏なものだったが、空虚なものだっただけに、アルベルチーヌは一種いそいそと、ひたすら語り手の要求に服従するのだった。
海のバルベックで、とつぜん楽士の演奏が響くころ、部屋のカーテンのすそに射し込む真っ赤な光の向こうでうねっていた青い海は、今やアルベルチーヌの背後で真珠のように輝いているように思われ、パリの炉辺にいるアルベルチーヌの魅力には、かつて語り手の心に、バルベックの浜辺に繰り広げられた人を人とも思わぬような花咲く乙女たちの行列の吹き込んだ欲望が、今なお生き続けているのだった。