心の間歇

かつて祖母とともに訪れたバルベックは、夏の海のバルベックだったが、二度目のバルベックは復活祭のバルベックだった。
祖母が亡くなってから、常に、毎日毎日、祖母を、そして祖母の死を思っている語り手ではなかったが、こうしてバルベックのグランド・ホテルに滞在し、祖母とともに眺めた海を見ると、まるで間歇泉から熱湯が噴出するように、亡き祖母への想いが湧き出てくるのだった。
語り手は以下のように、静かに語るのだった。
「…。やがて太陽の光線のあとから、不意に糸を引くような雨がやってきた。それは地平線の至るところに縞模様をつけ、その灰色の網目のなかに林檎の木の列を包み込んだ。しかし、林檎の木は落ちてくる驟雨(しゅうう)の下でこごえんばかりに冷たくなった風にさらされながら、相変わらず薔薇色に花をつけたその美しい姿を高くかかげていたのである。それは春の午後だった。」