ゲルマント大公夫人の夜会-2

本当の貴族社会の社交性とはどういうものなのか?
貴族の社交性、親切さを示す好例とはまずはこういうものである。
モンモランシー公爵夫人が、イギリス女王のために催した午後のパーティーで、ビュッフェ形式のテーブルに向かって、短い行列が出来ていたのだが、その行列の先頭にはゲルマント公爵に腕を取られてイギリス女王が進んでいた。語り手がパーティー会場に到着したのはそんな時なのだったが、なんとゲルマント公爵はイギリス女王と組まれている腕の、もう一方の空いている手で、『お〜い、君、こっちこっち!』とばかりに語り手を手招きして呼んでくれたのである。
語り手はどうしたか?
もうだいぶフランス上流貴族の仕来たりに慣れてきた、宮廷言語に上達してきた語り手は、そんなゲルマント公爵の手招きに、微笑を浮かべることもなく、ただ深々と頭を下げ、反対方向へと向かったのである。
そしてこの語り手のゲルマント公爵への対応は後々まで絶賛されたのだった。