ゲルマント公爵夫人の赤い靴-2

それほど反ユダヤ主義(反ドレフュス派)で凝り固まっているゲルマント大公だというのに、しかも余命幾許(いくばく)も無いというのに、ユダヤ人スワンはどうしてそんな病身を押してまで、今夜のゲルマント大公夫人の夜会に出席するというのだろう、と訝(いぶか)る語り手だったが、ゲルマント大公夫人の夜会に出席する前にサン=トゥーベルト侯爵夫人の晩餐会へ出ようと急ぐゲルマント公爵夫人に会ったスワンを例の才気(エスプリ)の効いた会話で、来年の春のイタリア・シチリア旅行へと誘うゲルマント公爵夫人だった。
そんなゲルマント公爵夫人の誘(いざな)いに対してスワンは『もう僕は長くはありませんから』と答えるのだった。しかし、サン=トゥーベルト侯爵夫人の晩餐会へと急ぐ公爵夫人はスワンに簡単な、実に簡単な励ましの言葉を与えて、馬車に乗り込もうとするのだったが、その時赤いドレスを着ているのに黒い靴を履いている夫人に気付いた公爵は、公爵夫人に“赤い靴を履くように”、と指示するのだった。
そして公爵はスワンにこう言うのだった。
『それからあなたはね、医者のたわごとにあまりくよくよしなさるなよ。いやはや!あいつらはみんなたわけですよ。あなたは、ポン=ヌフみたいに丈夫な人なんだから。われわれのだれよりも長生きするにきまっているよ』
以上で「失われた時を求めて」第三篇「ゲルマントの方」は終わり、次からは第四篇「ソドムとゴモラ」に進みます。