男はソドムを持たん

人(ひと)と人(ひと)に運命の出会いというものがあるとすれば、プルーストの小説「失われた時を求めて」第四篇「ソドムとゴモラ」の冒頭は、人と人の運命の出会いを描いて余すところがない。
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『ゲルマント大公夫人は、**日に在宅しております』という手紙を受け取った語り手は、この手紙が大公夫人の夜会への招待状かどうか、ゲルマント公爵夫妻のカンヌからの帰りを待って、午前は最上階から、午後は一階の階段のところから、待伏せたのだったが、そこで語り手はシャルリュス男爵と元チョッキ仕立て職人ジュピアンの偶然の、しかし運命的な出会いを目撃するのだった。
語り手はこう語る。
『……。男爵はなかば閉じていたその目を不意に大きく見開き、異様な注意をこめて、店の敷居のところにいる元チョッキ職人を見つめており、一方、相手はシャルリュス氏を前にしてその場に釘づけになり、植物のように根が生えたまま、感歎の面持ちで、老いを感じさせる男爵の太った身体を凝視しているのだった。……。男爵は今では自分の感じた印象を隠そうとつとめながら、そんなふうに無関心を装っているにもかかわらず、そこを去るのが心残りで仕方ないように見え、行きつ戻りつしては、自分の瞳の美しさを一番発揮できると考えているやり方で虚空を見つめ、とくとくとした、投げやりな、ひどく滑稽な様子をしている。するとジュピアンの方はたちまち、それまで常に私の知っていたへりくだった善良そうな様子を失って、ー男爵と完全に釣り合いのとれた形でー頭をしゃんと立て、その身体にうぬぼれたっぷりな姿勢を与え、グロテスクなポーズで一方の拳を腰にあて、尻を突き出し、願ってもない幸運でたまたまやってきたマルハナ蜂に対し蘭の花がやるかもしれないような、なまめかしいポーズをとるのだった。……。』