その後の展開

空爆が終わって帰宅すると、家政婦のフランソワーズが、語り手の留守中に、ゲルマント公爵家の希望の星、語り手の初恋の女性ジルベルトと結婚した、ロベール・ド・サン=ルーが、戦功十字章を置き忘れていかなかったか、捜しに来たという。それではやはりジュピアンの宿から出てきた男はサン=ルーだったのか!
サン=ルーは“隠れゲイ”!?!
しかしそのサン=ルーは前線に引き返してゆき、二日後に戦死してしまう。
語り手は深い悲しみに沈み、二人の友情の軌跡を思い返す。
サン=ルーの死は家政婦のフランソワーズにとっても、ゲルマント公爵夫人にとっても、大きな悲しみだった。
語り手は再び療養所に入り、時が流れ、第一次世界大戦終了後の或る日のことから
再び「失われた時」を語りはじめる。
■木よ…
療養所からパリへ戻る列車のなかで語り手は、かつてゲルマントの方で気がつき、ジルベルトと一緒に散歩をしながらタンソンヴィルでもいっそうの悲しみを伴って再認識したことなのだが、自分には文学的才能が欠けていると考えるのだった。
以前タンソンヴィルでゴンクールの日記を読んで、実は文学そのものが空しく偽りのものではないかと思った語り手は、自分に才能が欠けていると思ったほうが苦痛は強いけれども、文学そのものが偽りのものだという考えは、苦痛は減るけれど、ますます自分を暗くすると思うのだった。
パリへ戻る列車はイル・ド・フランスの美しい平原で、車両故障のため、一時停車を余儀なくされていたが、列車の線路沿いにつづく一列の木々の幹を、夕日がちょうど半分くらいまで照らす頃だった。

語り手はその美しい木々に向かって、『木よ、きみたちは、もうぼくに語るものを何も持っていないのだ。僕の冷えきった心には、もうきみたちの声も聞こえてはこない。…』と、あらためて自分に文学的才能が欠けていると思って、落ち込むのだった。