アルベルチーヌ・シモネ-3

『…。でも、今晩はいっしょに過ごせるのよ。ポンタン伯母には知られっこないわ。わたし、アンドレにさよならを言ってくるわね。それじゃ、あとでね。早くいらっしゃいよ。二人っきりの時間がたっぷりあるのよ!』
アルベルチーヌ・シモネにそう言われた語り手は、窓のなかの谷の横の方に見える海、メーヌヴィルの一番手前の断崖の盛り上がった乳房、まだ月が中天高く昇っていない空、そういったものがすべて綯(な)い交(ま)ぜとなって、すっかり興奮状態となってしまうのだった。
「やめて!でないとホテルマンを呼ぶ呼鈴(よびりん)を押すわよ。」というアルベルチーヌの声にも、ここで躊躇(ためら)っては男が廃(すた)るとばかりに、思いっきりアルベルチーヌに抱きつき接吻(キス)をしようと迫る語り手なのだった。
その時、語り手はけたたましい、長く呼びつづける物音を耳にした。
アルベルチーヌが力いっぱいにホテルマンを呼ぶ呼鈴(よびりん)を鳴らしたのである。