その男

シャルリュス男爵はサン=ルーと語り手が待っても、待っても、その姿をみせないのだった。
ある朝、11時頃、バルベックのグランド・ホテルに戻ろうとした語り手は、ホテルの近くのカジノの前で、そう遠くないところから、誰かにジッと見つめられたような気がした。
視線を感じた語り手が振り返ってみると、そこには鋭い視線の、黒い髭をたくわえた、長身の四十がらみの人物が眼に入った。
その男http://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040824は、四方八方にこのうえもなく活発な視線を発するのだったが、その視線は大胆かつ慎重だった…。
そしてその視線は素早くもあれば、奥深くもあって、まるで逃走直前に相手に向かってぶっ放す最後の一撃のような視線を語り手に向かって放つと、その四十がらみの黒髭の男は語り手の前から、忽然と姿を消してしまうのだった。