コンブレー

ひと口含んだマドレーヌと紅茶は無意志的に語り手に全コンブレーを生き生きと甦らせたのであったが、語り手の寝室のあったコンブレーの家は、そのモデルとなったプルーストの父方の実家のあるイリエという町を、現在ではイリエ=コンブレーという名に変えてしまった。
おまけにイリエ=コンブレーにはプルースト高校・プルースト中学というプルーストの名を冠したリセまで在る。そしてプルーストみやげに“プルースト印のお饅頭”をどうぞ、とばかり、イリエ=コンブレーの町のケーキ屋さんにはプルーストのマドレーヌが売られているのだった。
ああ、虚構への現実の何という侵食…。
それでも写真集http://www.cmp-lab.or.jp/~narusawa/illiers/illiers-combray.htmlで見るイリエ=コンブレーの町はこの小説、『失われた時を求めて』への郷愁に満ちている、と思う。