スワン家のほうへ(1)


長いこと私は早めに寝む(やすむ)ことにしていた。ときにはロウソクを消すとすぐに目がふさがり、「眠るんだ」と思う間もないことがあった。ところが三十分もすると、眠らなくてはという思いに、はっと目が覚める。いまだ手にしているつもりの本は下におき、灯りを吹き消そうとする。じつは眠っているあいだも、さきに読んだことをたえず想いめぐらしていたようで、それがいささか特殊な形をとったらしい。つまり私自身が、本に語られていた教会とか、四重奏曲とか、フランソワ一世とカール五世の抗争とかになりかわっていたのである。