それぞれのプルースト
読書はひとつの友情である。
プルーストはこんなふうにも言うのである。現実の世界の友情は、往々にして浮薄に流されてしまうものだけれど、読書は誠実な友情であり、相手が死者や不在のものであるために、いっそう無私無欲なものになるであろう。書物に対してお愛想は要らない。その友と宵をすごすのは、それを本心から望んだからであり、自分は気が利かなかったのではないか、相手に気に入ってもらえただろうか、などと思い煩うこともない。
わたしが学生だったころ、男性同性愛者の高尚な芸術家小説を、女子学生などが理解できるのか、という仄めかしがないではなかった。しかし読むほどに、「ひとつの友情」という呼びかけは、万人に向けたものだろうという実感はつのる。性的にも曖昧で病身のプルーストの世界には、弱者への優しさと救いと慰めがある。人生の疲労感をわかちあえると感じている。
以上は「砂漠論」に載っている工藤庸子教授の鈴木道彦訳プルースト「失われた時を求めて」文庫版「スワン家の方へ(2)」の後書のエッセイの抜粋。
ぼくはこのエッセイに深く共感する。
- 作者: 工藤庸子
- 出版社/メーカー: 左右社
- 発売日: 2008/03/12
- メディア: 単行本
- 購入: 2人 クリック: 8回
- この商品を含むブログ (5件) を見る
失われた時を求めて 2 第一篇 スワン家の方へ 2 (集英社文庫)
- 作者: マルセル・マルセル・プルースト,マルセル・プルースト,鈴木道彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2006/03/17
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 25回
- この商品を含むブログ (25件) を見る