それぞれのプルースト

読書はひとつの友情である。
プルーストはこんなふうにも言うのである。現実の世界の友情は、往々にして浮薄に流されてしまうものだけれど、読書は誠実な友情であり、相手が死者や不在のものであるために、いっそう無私無欲なものになるであろう。書物に対してお愛想は要らない。その友と宵をすごすのは、それを本心から望んだからであり、自分は気が利かなかったのではないか、相手に気に入ってもらえただろうか、などと思い煩うこともない。

わたしが学生だったころ、男性同性愛者の高尚な芸術家小説を、女子学生などが理解できるのか、という仄めかしがないではなかった。しかし読むほどに、「ひとつの友情」という呼びかけは、万人に向けたものだろうという実感はつのる。性的にも曖昧で病身のプルーストの世界には、弱者への優しさと救いと慰めがある。人生の疲労感をわかちあえると感じている。

以上は「砂漠論」に載っている工藤庸子教授の鈴木道彦訳プルースト失われた時を求めて」文庫版「スワン家の方へ(2)」の後書のエッセイの抜粋。

ぼくはこのエッセイに深く共感する。

砂漠論 ヨーロッパ文明の彼方へ (流動する人文学)

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失われた時を求めて 2 第一篇 スワン家の方へ 2 (集英社文庫)

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