「花咲く乙女たちのかげに」第一部「スワン夫人をめぐって」

mii06252008-03-08


ところで私的な感覚の思い出の場合、心の苦しみの思い出の場合よりも、その平均寿命ーその相対的な寿命ーがはるかに長いから、ジルベルトのおかげで当時私の覚えた苦悩がはるか以前に消え去っても、快感は生き残った。そして私は今なお五月になると、一種の日時計のようなものの上で十二時十五分から一時までの時間を読もうとするたびに、まるで藤棚の色に映えているように、スワン夫人の日傘の下で彼女と話を交わしている自分の姿がありありと目に浮かんで、快感をそそられるのである。