ヴァントゥイユのソナタ

ゆったりしたリズムで、楽節はスワンを導き、まずここに、ついであちらに、さらにまた別なところにと、気高く、理解を超えた、しかも明確な幸福に向かって進んでいった。そして突然、それが到達していた地点、そこからさらに楽節に従ってゆこうとスワンが身構えていた地点で、しばし休止した後に、急に方向を変え、新たにもっと遠く、細かく、憂わしげな、とぎれのない、またやさしい動きで、未知の目標に向かってスワンを引きずっていった。それから楽節は姿を消した。

失われた時を求めて(上)

失われた時を求めて(上)