ブッデンブローク家の人びと(13)

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)

一月のある日の朝、雪もよいであたりが霧に包まれている朝、グリュ−ンリッヒ夫妻は、三歳になった娘と一緒に、栗色の腰板をした食堂で、一脚が25マルクの椅子にかけて、最初の朝食を食べていた。二つの窓のガラスは、霧でそとがほとんど見えなくなっていて、戸外の葉のない茂みがぼんやりと見えるだけであった。緑色の釉薬(うわぐすり)をした低いストーブが、食堂の片隅に置かれていた。

ーーその横には、観葉植物がならべられている「パンジーの部屋」へ通じるドアが開かれていた。
ーーストーブは赤い焔がぱちぱちと燃えていて、いくぶんにおいのあるおだやかな温気を食堂に送っていた。このストーブの反対側に、緑色のラシャのカーテンが下げられていた。少し開かれている間から、褐色の絹を張ってある客間が見え、ガラスの高いドアが見えた。

 丸いテーブルの上には、純白の織物の緞子がかけられ、その上に緑色の編んだテーブルセンターがおかれ、金色の縁を取った陶器がならべられていて、透き通るように白く、ときどき真珠母のように光っていた。薄い銀でつくられた平たいパン入れの籠は、大きい葉の形をしていて、葉の縁に鋸の歯のようにぎざぎざがあり、その葉がいくらか丸まっていた。籠のなかには、ミルクパンが丸いままや切って入れられていた。

 赤葡萄酒も一壜おかれていたが、これは家長の席の前に置かれていた。グリュ−ンリッヒ氏は、朝食に温かい料理を食べることにしていたからであった。