ブッデンブローク家の人びと(11)

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)

「私もあなたとまったく同じに考えます、友よ。この問題は重要な問題であって、はっきりさせておかなくてはなりません。要するに、私たち一家の若い娘の持参金は、前から現金で七万マルクということに決められています。」

 グリューンリッヒ氏は、近く義父になるコンズルの顔を、商売人らしく、探るようにちらっと横目でうかがった。

 グリューンリッヒ氏は言った。「私はその立派な伝統と原則に深い尊敬をいだいております!しかし、…こんどの場合、その立派なご配慮は行きすぎとも考えられないでしょうか?…お仕事は大きくなり、…ご一家は繁栄なさって、…要するに、条件が変わってきています、前進しています。…」

コンズルは言った。「ご存知のように、私は話しのわかる商売人だと自惚れています!いや、…あなたは私の話の終わりまで聞いていて下さらなかったのです。終わりまで聞いておられたら、おわかり下さったでしょう。私が諸般の事情を考え合わせ、お気持ちに添うことにして、文句なく七万に一万加えさせていただこうとしていますことが。」

「すると八万ですね。…」とグリューンリッヒ氏は言った。そして、多すぎもしないが、手を打ちましょうとでもいうような口つきをした。

 話はどちらも満足できるようにまとまり、コンズルは立ち上がり、ズボンのポケットの鍵束を満足そうに鳴らした。ようやく八万マルクで、「持参金の伝統の金額」を守ることができた。
 
 そして、グリューンリッヒ氏は辞去して、ハンブルグへ戻った。トーニは、新しい生活が待っていることを少しも感じていなかった。