ブッデンブローク家の人びと(6)

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)

それから二年半が過ぎて、四月の中旬、例年よりも早く春が訪れていたが、ヨハン・ブッデンブローク老人がほくそ笑いをし鼻歌をうたい、息子のコンズルの心も、うれしさに弾むようなことが起こった。

コンズルは書き込んだ。

1838年4月14日、午前6時、クレーガー家から嫁げる愛妻エリーザベトは、神のありがたき加護により、つつがなく女児を分娩。この女児は、聖なる洗礼に、クララと命名されるべし。」

いや、コンズルはそこは飛び越え、結婚したころと、初めて父親になったころのことを、あちこち数行を読み返した。

正直をいうと、それは恋愛による結婚とはいえなかった。

父親は、息子の肩をたたいて、商会に豊かな持参金を持ってきてくれる裕福なクレーガー家の令嬢に目を向けさせ、息子もその結婚に心から同意し、そののち妻を神からゆだねられた人生の伴侶として敬愛しつづけた。