ブッデンブローク家の人びと(5)

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)

 風景の間にもう一度集まった客たちが、ほとんどいっせいに帰り始めたのは、もうかなり遅くなってからであって、十一時に近いころであった。

 強い風が雨を横なぐりにし、クレーガー老夫妻は厚地の毛皮の外套にくるまり、先刻から待っていた豪奢な馬車へ急いで乗りこんだ。
家の前の鉄柱のてっぺんに点っている油ランプの黄色い光が、明滅しながらまたたいていた。
そのランプは、通りのもっと下方で街路の上に張り渡された太い鎖に垂らされていた。
ところどころ、家並みの出っ張りが街路に突き出ていた。
街路は下っていて、トラーヴェ川の川岸へつづいていた。
出っ張りの或るものは、テラスやベンチをそなえていた。
いざった敷き石の間に、雨でぬれた草が生えていた。
向かいのマリーエン教会は、影と闇と雨にすっかり包まれていた。