ブッデンブローク家の人びと(4)

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)

クリスタルの大皿二つに盛られた「プレテン・プディング」が運ばれた。マコロン、苺、ビスケット、玉子のクリームを、つぎつぎ重ね合わせたケーキであった。食卓の下方で子供たちがお気に入りのデザートケーキである、ローソクが点されている乾し葡萄入りプディングが配られて、はしゃぎ始めていた。
「トーマス、おまえ、お願いするよ。」とコンズル(名誉領事)・ヨハン・ブッデンブロークは言って、ズボンのポケットから大きい鍵束を取り出した。「右の第二地下室ね。その二番目の棚から、ボルドーの後ろの二本の壜をね、わかった?」
こうした使い走りに慣れているトーマスは、さっそく走り去り、やがて埃と蜘蛛の巣にまみれた壜を持って戻ってきた。
見栄えのしないその壜から、濃い葡萄液のマルヴァジールが、デザート用の葡萄酒の小さなグラスに注がれると、いよいよ今夜のクライマックスになり、ウンダーリッヒ牧師がやおら立ち上がり、まわりの雑談がぴたりと静まり、牧師は浮き浮きとした口調で、乾杯の言葉を述べ始めた。