マロニエの蕾」

水のような冷たい空気にひたっているブールヴァールのマロニエの木が、それでも几帳面な春の招待客として、もう装いをこらし、気落ちをすることもなく、抑えることのできない蕾をふくらませ、それを凍った塊(かたまり)のような姿に彫りあげはじめているのを眺めたり、またその蕾のすくすくと伸びゆく力が、生命を根絶する寒気によって妨害はされても、完全に抑えこまれることはないのを目にしながら……


ースワン家の方へー

鈴木道彦訳、「プルーストの花園」、集英社 より。

プルーストの花園 詞画集

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