初恋/白骨温泉篇

機動隊が浅間山荘に突入したその日、yから電話がかかってきて数ヶ月中断していたyとの交際が復活した。しかし、それはなにかギクシャクした、表面的な、心の奥底では信頼を欠いているような感じの交際だった。けれどもyはぼくの両親と会い、その頃はyの両親は離婚していたのでぼくはyの母とだけ会った。

そしてその年の夏、社会人になっていたyはぼくに夏期休暇を利用して上高地へ行こうよ、と言った。

上高地・乗鞍・奥飛騨・白骨温泉 (るるぶ楽楽)

上高地・乗鞍・奥飛騨・白骨温泉 (るるぶ楽楽)

あずさ2号に乗って新宿から向かった上高地は台風襲来で道が閉ざされてしまっていた。仕方なく手前の「名も無い温泉宿」に一泊することにしたのだったが、これが昨年の「温泉湯の水増し事件」で有名になった「白骨温泉」だった。温泉のお湯は乳白色で底が見えなかった。男湯と女湯と入り口は別だが中は一つという、あれである。その乳白色の色の温泉の湯気のなかで見る裸身のyは美しかった。夜中に「嵐の雨音と風の音が恐い」と言ってyが泣き出した。30分くらいもぼくの肩で泣いていただろうか、その後、深い寝息をたててyは眠った。ぼくはこのときyを愛しいると感じた。

翌朝は台風一過の快晴、抜けるような青空だった。上高地に二泊してその後松本市松本城天守閣などに昇ってから夕方東京に帰った。

そしてその一ヵ月後、yとぼくは別れた。