忘れな草

シャルリュス男爵を囲んだ晩餐会の席で、サン・ルーは男爵の前で、語り手が、夜しばしば寝つくまでのあいだに覚える悲しみのことを話してしまった。恥ずかしくなった語り手は寂しく部屋へと戻るのだったが、少したつと、シャルリュス男爵が語り手の部屋を訪れて、
『あなたはベルゴットhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040821の小説がお好きなのですね。わたしの旅行鞄に一冊、多分あなたが未だ読んだことがないベルゴットの小説が入っていましたので、あなたの眠れない夜に読んでいただければ幸いです。』と言って、語り手にベルゴットの小説をプレゼントしてくれるのだった。
ところが、翌朝、シャルリュス男爵は語り手に、ぶつぶつぶつぶつ、お説教をすると、な、なんと昨夜のベルゴットの小説を返してくれ、と言ったかと思うと疾風(はやて)のごとくバルベックの海を発(た)ってしまうのだった。『あれマァ!』とただ吃驚する語り手だったが…。
その後しばらくして、語り手のもとにシャルリュス男爵からペリカン便が届いた。中にはあのベルゴットの小説が、モロッコ皮で装丁されていて、表紙にはある草花の浮き彫りが施されていた。
それは『忘れな草』の浮き彫りだった。