広告塔

語り手はまだ、芝居というものを実際に観たこともないうちから、女優ラ・ベルマに憧れを抱いているのだった。語り手のクラス・メートのあいだでは女優のベスト・テン選びが流行っていたが、女優ラ・ベルマはベスト・ワン女優サラ・ベルナールに次いで、常にベスト・ツーに選ばれるのだった。語り手はラ・ベルマのブロマイドを買ったり、巴里名物の広告塔へ向かって走っていってラ・ベルマの芝居の予告を眺めたり、語り手の心にラ・ベルマの刷り込みは完成していたのだったが、実際に目の当たりにしたラ・ベルマの舞台は語り手をがっかりさせてしまうのだった。