憧れのゲルマント公爵夫人

そして語り手がタピスリや幻燈やステンドグラスなどから想像するゲルマント公爵夫人は、貴婦人中の貴婦人だったが、実際に見るゲルマント公爵夫人は決して想像の世界を超えるものではなかったことに語り手は複雑な思いを抱くのだった。
語り手の想像の世界では貴婦人中の貴婦人、そのシラブルがオレンジ色の光沢を放つゲルマント公爵夫人を、現実の世界で目の当たりにし、その想像と現実のあまりの落差に、自分には文筆の才がないこと、いずれ有名な作家になることなどをあきらめなくてはいけない、などと語り手は思うのだったが、ある夏の夕刻、コンブレーに帰る馬車から眺めた、マルタンヴィル教会の二つの鐘塔とヴィュヴィック教会の鐘塔が遠方で重なり合って、まるで三羽の鳥のように重なって見えるのに感動し、心の底から歓喜があふれてくるのだった。この夕暮れ時の三つの鐘塔を語り手は馬車に同乗していた医師に筆記用具を借りて文章に残すのだった。