歯科金属アレルギーとアトピー

T君は十年来のアトピーの患者さん。最初にいらしたときは中学生だった。お母さまに連れられて来た。いろいろなドクターに診てもらったがアレルゲン、アレルギー抗体の量等は調べてもらったことは無いとのことで、早速検査をしたところ、ヤケヒョヒダニは星6っと最強陽性、カンジダは星4っの強陽性、アレルギー抗体は3000アップだった。

アレルゲン対策として住環境の対策をお母さまにお願いし、抗アレルギー剤の内服、ステロイド、保湿剤、などの外用によって徐々にアトピーは改善してゆき、高校を卒業するころには月に数回の受診が年に数回の受診で済むくらになっていた。

大学を卒業し社会人となってからも、アトピーは憎悪せず、年に数回の受診でコントロール出来ていた。

そんなT君のアトピーが再び悪化してきたのは2年前、神奈川県に引っ越されてからである。受診して抗アレルギー剤を飲んでも、ステロイドを外用しても痒みが治まらなくなってしまったのだ。

転居による住環境の変化に問題ありと考え、さらなるアレルゲン対策を指導したが、なかなか痒みが改善しない。

ところが、ところがである。6月始めに受診したとき、かれは「先生、テレビで観ました!あれです!あれです!」と叫んだのである。それはアメリカの、医学をテーマにしたドラマ番組「E.R.」だった。そこで、歯科治療を受けて皮膚が痒くなってしまったというひとの物語を放送していたというのだ。

「僕も引越してから半年くらいして虫歯を治してもらったんです。そのとき金冠を入れたんです。きっと歯科金属アレルギーです!」「そういえば、ジーンズのボタンが皮膚に付くとそこに湿疹が出来るし、先生に良くしていただいたころの痒みと今の痒みとは質が違うような気がするんです。金属アレルギーの検査をして下さい。」

とうことで、取り敢えず塩化コバルト、重クロム酸カリウム、硫酸クロム、硫酸ニッケルの金属パッチテストを行ってみたところ、重クロム酸カリウムで陽性、硫酸ニッケルで強陽性の結果だったので、大学病院にさらなる精査を依頼した。

17種類の金属アレルギーのパッチテストの結果、歯科金属アレルギーがハッキリしたため、金冠を除去したところ、痒みは劇的に減少した。

最初のアレルギーのチリダニ、カビのアレルギーに、金属アレルギーがさらに加わってしまった結果、落ち着いていたアトピーが再燃してしまったのである。

歯肉炎や口内炎、顔面の発赤、顔面の腫れ等がまったく認められなくても、歯科金属でいままで落ち着いていたアトピーが再燃してしまうことがあるのだ。

『患者さんが教科書である』という言葉を今更のように教えてくれたT君だった。