きみはマタチッチを知っているか。
モンチッチのマタいとこだからマタチッチだ、って?
ロブロ・フォン・マタチッチ、1899年ユーゴスラビア生まれの指揮者の名前だ。
マタチッチの名前は60歳以上の日本のクラシック音楽愛好家なら誰でも知っているだろう。
(もちろんぼくは60歳以下だが…、でも知っている。)
マタチッチが日本に親しまれるようになったのはN響の指揮者として、N響を指揮してブルックナーをはじめとする数々の名演奏をおこない、当時の日本人に多大の感銘を与えたからである。
そんなマタチッチであるが、彼が日本で有名になる前、1962年にイタリアのトリノ交響楽団を指揮してイタリア人のオペラ歌手たちがイタリア語で歌った、ワーグナーの「ニュールンベルグの名歌手」が発売された。http://www.operac.com/
マタチッチはこのトリノでの演奏に先立つ1958年にバイロイト音楽祭で「ローエングリン」を指揮しているが、N響を指揮したワーグナーの「リング」組曲や、バイロイトの「ローエングリン」http://www.operac.com/chumon/rochu.htmなどを聴くと、おおよそこのイタリアの工業都市トリノで演奏された「マイスタージンガー」がどのようなものであったか、想像がつくというものだ。
キビキビ、テキパキ、スッキリ調ではなくて、その真逆、ネチネチ、コネコネ、コッテリ調であろう、と。
けれどもこのマタチッチの「マイスタージンガー」、たしかにゆったりではあるが、けっしてネチネチ系でもなければ、ベトベト系でもなかった。
歌手の歌わせ方が素晴らしいのだ。
まるでイタリアオペラを聴いているように感じる。
さらに、舞台が見えるような管弦楽の操りかた。
現代のオペラが舞台演出家にその主役の座を奪われてしまう前の、歌手と指揮者が主役だった時代の素晴らしい音の記録である。
オペラの醍醐味がその歌や合唱にある、ということが良くわかる貴重な「名歌手」の音の記録であり、そのような歌の醍醐味という視点はマタチッチがなんとあのウィーン少年合唱団の出身だということからも頷けよう。
ドイツ芸術の讃美、ゲルマン民族讃歌的な「マイスタージンガー」が一方の極(きわ)みであるとすれば、マタチッチの「マイスタージンガー」は“ちょいワルおやじ”礼賛的な「マイスタージンガー」であり、ヴェルディの「ファルスタッフ」とはまた、まったく別の楽しさがある。ぜひご一聴をおすすめしたい。