ブッデンブローク家の人びと(23)

ブッデンブローク家の人びと 下 (岩波文庫 赤 433-3)

クリスマス・イブのプレゼントの一つは人形芝居のセットだった。
 ああ、プロンプターの箱もあった。貝殻のような形をしたプロンプターの箱があり、その後ろに、横幅いっぱいの緞帳が、赤色と金色をして巻き上げられていて、舞台には、「フィデリオ」の大詰めの部分がかざられていた。哀れな囚人たちが合掌していた。ドン・ピサロがすごくふくらました袖の服を着て、舞台のどこかですさまじい身ぶりをして立っていた。そして、全てをめでたし、めでたしで終わらせるために、舞台の奥から大臣が、黒いビロードずくめの服装をして、早足で近づいていた。市立劇場とそっくり同じであって、もっとずっとすばらしいくらいであった。ハンノの耳には、フィナーレの歓喜の合唱が聞こえてきた。