トーマス・マンとブラームス

早稲田大学第1文学部・独文科卒のクラッシック音楽評論家・吉井亜彦さんはその著書「名盤鑑定百科 交響曲篇」のなかで、ブラームス交響曲第三番をトーマス・マンの小説「トニオ・クレーゲル」に擬えてこう言っておられる。

名盤鑑定百科 交響曲篇 (新装増補版)

名盤鑑定百科 交響曲篇 (新装増補版)

ブラームス交響曲第三番は硬軟、曲直、明暗などを巧みにとりあつかい、カヴァーしている領域はきわめて広いにもかかわらず、晦渋趣味に走ることなく、情緒的に走ることもない。しかも、全体に過度に長大化することなく、きりりとひきしまっており、無駄がない。、まさにふさわしい器にふさわしい内容がぎっしりとつまっているという感じだ。

トーマス・マンのファンであり、ブラームスの第三番が好きなぼくとしては、まさに、我が意を得たりの一文なのだが、でも、ブラームスの第三番ほど、指揮者によって与える感興が異なる楽曲もまた少ないとも思うのだ。たとえばクナッパーツブッシュ指揮の第三とフルトヴェングラー指揮の第三を聴き較べてみれば良い。同じ譜面を音化(おとか)して、これほど呼び起こす感興が違うものか、と唖然としてしまう。クラッシック音楽を聴き較べるということの楽しさここにあり、という見本のような好対照の演奏だとぼくは思う。

クナの第三はこちら。
http://www.hmv.co.jp/Product/detail.asp?sku=51100
フルヴェンの第三はこちら。
http://www.hmv.co.jp/Product/detail.asp?sku=1357940
そしてマンの「トニオ」はこちらです。

トニオ・クレーゲル ヴェニスに死す (新潮文庫)

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