スワン家の方へ

mii06252006-05-07


わたしたちは夕食前にレオニ伯母を見舞えるようにと、早めに散歩から戻るのが常だった。シーズンが始まったばかりで日の暮れるのが早いころでも、サン=テスプリ街に着くときには家の窓ガラスにまだ夕日が映え、カルバリオの森の奥には一条の赤い色がかかっていて、それがなおその向こうにある池の面に映っていたが、その赤さにはしばしばかなり厳しい寒さが伴っていて、わたしの頭のなかでは暖炉の火の赤さと結びついていた。その暖炉の火の上では雛鳥が焼かれており、それがわたしには、散歩の与える詩的な楽しみを引き継いで、ご馳走、室内の暖かさ、休息などの楽しみを与えてくれるものに見えたのである。夏には逆に、わたしたちが家に帰るころ、太陽はまだ沈んでいなかった。そしてわたしたちがレオニ伯母の部屋を訪れているあいだに、ますます低くなって窓に当たるようになった太陽の光は、大きなカーテンとその留め紐のあいだに引っかかり、細かく分割され、フィルターで濾されて、箪笥に使われたレモンの木に細かな金箔を嵌めこみ、森の下草を過ぎるときのような繊細さで、部屋を斜めに照らしだすのだった。

失われた時を求めて 1 第一篇 スワン家の方へ 1 (集英社文庫)

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