■
第三章「サンディマウントの浜辺にて」
デイジー校長からサラリーを貰ったスティーブンはダブリンの中心部にほど近い浜辺にやって来る。
- 産婆のカバンと砂まみれの雨傘
スティーブンは二人の女が砂浜を歩いて来るのを見る。第一の女は産婆のカバンを重そうにぶらさげ、もう一人は雨傘で砂浜を突いていた。どうやらリバティ地区から一日の行楽に来たというわけか。フロレンス・マッケイブ夫人。深く惜しまれしブライド・ストリートの故パトリック・マッケイブの後添え。彼女の仲間の一人がひいひい泣くぼくをこの世に引きずり出した。
- 三本帆柱の帆船が…
詩作に耽るスティーブン。肩越しに海を見やれば一艘の船が…。
船はマストに帆を絞り上げて、音もなく、河口を遡り、母港へと帰っていく。