プルースト「スワン家の方へ」

充血はとうにひいたというのに、息苦しさはしつこくつづき、もう説明がつかなくなったので、両親は医者のコタールhttp://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040918に往診に来てもらった。このような症状のときに呼ばれる医者は、ただ知識があるというだけでは充分ではない。三つか四つの異なった病気に当てはまる兆候を前にして、外見上ほぼ似たようなものであるにしても、まずそのなかのこの病気だろうということを決定するのは、結局のところ医者の嗅覚であり、眼力である。この不思議な才能があるからといって、知性のほかの分野ですぐれていることにはならず、おそろしく卑俗な人物で、最低の絵画、最低の音楽を好み、およそ精神的好奇心を持ちあわせぬ者でも、この才能を完全に保持していることがありうるのである。