プルースト「スワン家の方へ」 

けれどもあるとき、このようにかならず家まで送っていくのに嫌気がさしたスワンが、例の若いお針子をブーローニュの森まで連れていってヴェルデュラン家へ行く時間をおくらせ、こうしてずいぶん遅くなって着いたので、もう彼が来ないと思ったオデットは帰ってしまったあとだということがあった。彼女がすでにサロンにいないのを見てとると、たちまちスワンは胸に苦痛を覚えた。彼は一つの喜びが奪い去られたことに慄(おのの)いた。その喜びの大きさを彼はこのときはじめて思い知ったのである。
http://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040908