失われた時を求めて(上)作者: マルセル・マルセル・プルースト,マルセル・プルースト,鈴木道彦出版社/メーカー: 集英社発売日: 1992/06/19メディア: 単行本購入: 1人 クリック: 18回この商品を含むブログ (26件) を見る

プルースト「スワン家の方へ」

  • はるかなコンブレーの鐘塔

コンブレーの町にあるすべての仕事、すべての時間、すべての物の見方に形を与え、これを完成し、聖なるものたらしめているのは、サン=ティレールの鐘塔だった。私の部屋からはスレートをふき直したその根元の部分しか見えなかったが、それでも夏の暑い日曜日の朝など、そのスレートが黒い太陽のように燃えあがるのを見ると、私はこう思うのだった。「大変だ、九時だぞ!すぐ歌ミサに行く支度をしなくちゃ、出かける前にレオニ叔母さんにキスをしにいく時間がなくなってしまうぞ」そのとき私には広場に注がれている太陽の色も、市場の暑さや埃っぽさ、店の日除けが影を落としていることも、晒していないその布の匂いのこもった店に、たぶんミサの前にママが入っていくことも、正確に分かっていたーその店でママはハンカチか何かを買うだろうし、店の主人は反り身になって品物を見せるだろう。
http://d.hatena.ne.jp/mii0625/20040815