読書する少年

夏のコンブレーの自室で読書に集中している語り手に祖母は、とにかく部屋にいないで、外へ出なさいと言いに来るのだった。庭のマロニエの木陰で読書を続ける語り手には、読書に集中するあまり、コンブレーの鐘の音も聞こえず、気がつけば夕方になっていたことが良くあった。
そして語り手はこう思うのだった。
「コンブレーの庭のマロニエの木陰で過ごした日曜日の晴れた午後たちよ、私は自分の個人的生活のなかにある平凡な出来事をお前たちから念入りに除き去り、これにかえて、清流に潤された地方で起こる奇妙な冒険と憧れの生活でお前たちを満たしたが、今でも私がお前たちのことを思い浮かべるたびに、お前たちはそうした生活を呼びおこしてくれるし、また事実お前たちは、その生活を自分の内に維持しつづけている。それというのもー私が本を読みすすめ、また日中の暑さが退いていくあいだにーお前たちは少しずつあの生活を取り囲み、しんとした、音のよく通る、香り高く澄んだお前たちの時間が、葉の茂みを通してゆっくり変化しながら次々と作り出す結晶のなかに、それを閉じこめてきたからなのだ。」