フィデリオ
音楽評論家の吉井亜彦さんはその著書「名盤鑑定百科 声楽曲・オペラ篇」のなかで、ベートーヴェン唯一のオペラ作品である「フィデリオ」について、下記のように述べておられる。
…しかし、しかしである。ぼくが内心ひっかかるところがあるのは、これだけ数多くの舞台に接しているにもかかわらず、終わったあとに感動を覚えたというか、ああ、いいオペラにふれる機会に恵まれてよかったと思えるような経験が一度もないということだ。単なる言葉のアヤとしていうのではなく、文字どおりそのような経験が一度もないのである。多くの人たちから、長期間にわたって高く評価されている「フィデリオ」であるにもかかわらず、ぼくにとってはその舞台設定、登場人物のキャラクター、全体を貫く理念などといったものが、どうにも馴染みにくい。どのように理解すべきなのかがよくわからないのである。
なにもこれはベートーヴェンの「フィデリオ」に限って言えることではなくて、クラッシク音楽の作品一般について、あるいはもっと拡大して、芸術作品一般について言えることではないだろうか。ある名演に接して初めてその作品の良さが心に沁み、解かるのだ。ぼくにとって「フィデリオ」はベルナルド・ハイティンクのグラインドボーン音楽祭ライブに尽きる。ぼくはこの演奏に接することによって初めて「フィデリオ」の素晴らしさが解かった。機会があったら吉井亜彦さんにも観ていただきたいぞ、と思わせるほどの名演である。
http://www.hmv.co.jp/product/detail/2806160
- 作者: 吉井亜彦
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