恋の終わりと愛の始まり
グローブ・プランドルの歌う「トリスタンとイゾルデ」を聴いた。1956年12月、ウィーン国立歌劇場のライブ上演の記録で、演奏後52年を経てからの世界初出CDである。その上演後五十年も経ってからその演奏の記録が発表されるとは、これぞ音楽家冥利に尽きるというものであろう。
グローブ・プランドルのイゾルデは素晴らしい。その素晴らしさはオペッラク清水 真代表が詳しく書いておられるので、こちらを参照されたい。http://www.operac.com/
1950年代とはいったい、いつごろのことだろうか。映画「ニュー・シネマ・パラダイス」で火事が起き、リニューアルが成った頃だろうとぼくは思う。そしてトトとエレナが出会った頃が1950年代半ばのことだろう。
オペラ「トリスタンとイゾルデ」はイゾルデがトリスタンへの永遠の愛を歌い上げて幕となるのだが、映画「ニュー・シネマ・パラダイス」では待ち焦がれるトトの前にエレナは現れず、二人の恋は悲恋に終わる。
もし、瀕死のトリスタンにイゾルデの必死の介抱と愛が通じて、トリスタンが健康を取り戻し、イゾルデと幸せに人生を真っ当したら…、それではドラマにならない。時間という魔物が二人の愛を蝕んでいくだけだからだ。
もし、トトの前に銀行家の父の反対を振り切ってエレナが現れて、二人幸せに結婚したら…。トトは映画監督にはならずせいぜい市議会議員で終わったことだろう。
どのような恋愛も時間に抗って燃え続けるのは難しい。燃え尽きることなく、しかし消えてしまわないように二人で努力していかなければならない。とても難しいことだが真実の愛は時間に負けないことを要求する。
スワンの恋は終わったが、オデットとジルベルトへの愛は続き、スワンは人生を全うして終わる。これが現実である。プルーストの小説家としての真骨頂がここにある、とぼくは思う。
失われた時を求めて 2 第一篇 スワン家の方へ 2 (集英社文庫)
- 作者: マルセル・マルセル・プルースト,マルセル・プルースト,鈴木道彦
- 出版社/メーカー: 集英社
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