シャルリュス男爵の横顔

おそらく彼はこんな言葉を吐いたのを後悔したのだろう。というのも彼が貸してくれた本、そしてエメが「外出中」のためエレベーターボーイの手を通して彼に返したその本が、しばらくたって彼から送られてきたからで、しかもそれはモロッコ革で装丁されており、表紙には別の皮がプレートのようにはめこまれていて、そこには浮き彫りで一枝の忘れな草が描かれていた。

このエピソードほど、シャルリュス男爵の横顔を端的に描写するものはないだろう、とぼくは思う。語り手にベルゴットの本を丁寧にモロッコ皮で装丁して、「忘れな草」の絵を刻印する、シャルルス男爵とはそういうひとなのだ。