ブッデンブローク家の人びと(17)

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)

雨の音が、一段と高く流れ込んだ。ほんとうに土砂降りであった。すべてがざわめき、ぴしゃぴしゃ音をたて、流れ去り、泡立った。ふたたび風が起こり、一寸先も見えない雨のベールのなかへ愉快そうに吹き込み、ベールを千切り、追いまわした。一瞬ごとに涼しくなった。

 そのとき、リーネが、小間使いのリーネが、柱の立ち並ぶホールを通って、部屋へ走りこんできた。

「ドクトル・グラーボへ!」とトーマスがさけび、リーネをドアから押し出して走り去った。「どうしましょう!どうしましょう!」とコンズル夫人はさけんで、両手を頬のそばへ組み合わせ、走り出した。…
「ドクトル・グラーボへ…馬車で…はやく!」とトーニは息を殺してくり返した。
みんなは、階段を走りおり、朝食の部屋を走りぬけ、寝室へ走りこんだ。
コンズル・ブッデンブロークは死んでいた。