ブッデンブローク家の人びと(16)

ブッデンブローク家の人びと〈上〉 (岩波文庫)

「ええ!結構!よかろう!」とグリューンリッヒ氏はわめいた。「行ってしまえ!おまえのあとを追ってぼいぼい泣くとでも思うのか、お多福め!お生憎さま、お門ちがいだよ、おたんちんめ!金(かね)が目的でおまえと結婚しただけさ。金が足りなかったのだから、さっさと帰るさ!おまえなどあきあきしたよ。…あきあき…あきあきだよ…!」

 ヨハン・ブッデンブロークは、娘を連れて無言で部屋を出た。しかし、自分だけは、もう一度引き返し、グリューンリッヒ氏に近づいた。グリューンリッヒ氏は、両手を後ろに組み、窓際に立って、窓外の雨を見つめていた。コンズルは、その肩にそっと触れ、低い声で励ました。「しっかりしなさい。祈りなさい。」