妻の不倫
あいつ(ボイラン)は今日の午後4時ごろ我が家にやってくる。
今朝、ぼくは愛妻モリーのために朝食を、そして自分のために腎臓のソテーを作りながら、そう思った。
ぼくたち(ぼくとモリー)は出逢った頃、そして結婚したての頃はそれはもう幸せだった。
そう、あの日が来るまでは…。
長女のミリーは可愛らしくすくすくと育ってくれた。その後、長男のルーディにも恵まれたのだが、残念ながらルーディはその誕生から11日間しか生きていられなかった。
先天性の障害をたくさん持った可哀そうな長男ルーディ、ルーディが生まれ、そして亡くなってからのぼくと愛妻モリーとのあいだはなにか隙間風が吹き抜けていくような、ギクシャクとしたものへと変わっていってしまったのだった。
とにかく、あいつ(ボイラン)は今日の午後4時ごろ我が家にやってくる。
モリーはあいつ(ボイラン)に抱かれるのだろうか?
ぼくは今日の午後はディグナムの葬式に出席しなければならない。
今日の午後4時、ぼくの妻モリーはあいつ(ボイラン)を初めて抱くのだろうか?
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ジェイムズ・ジョイスの小説「ユリシーズ」、いよいよレオポルド・ブルームの登場です。