プルースト「花咲く乙女たちのかげに」

  • 暁を彩る牛乳売りの娘

以前メゼグリーズの方やルーサンヴィル(コンブレーの近郊)の森をひとりでさまよっていたときは、不意に農家の娘があらわれてくれないかとあんなにも心待ちにしたものだったが、そうした農家の娘にもまさって一地方の生んだ人間、その土地の特別な魅力を味わうことのできる人間がいるとすれば、このときその小屋から出てきて、昇る太陽に斜めに照らされた小径の上を、牛乳の壺をさげて駅のほうへとやって来るのが見えた大柄な少女こそ、まさにそのような人間だったにちがいない。朝の光に赤く照り映えて、その顔は空よりもさらに鮮やかなバラ色だった。私は彼女を前にしたとき、新たに美と幸福を意識するたびにわれわれの心によみがえってくるあの“生きたい”という欲望をふたたび感じた。

失われた時を求めて(上)

失われた時を求めて(上)